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だ、駄文

二次創作のくだらない駄文置き場
2024
05,14

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2005
12,29
「…………」
 さらりと言われ、思わずスルー仕掛けたが、
「別にあんたが他人の幸福(しあわせ)に貢献しなくってもいいってこと」
 今度こそ俺の心臓は高鳴った。見るのが恐い。きっと迷うことなく俺に向けている、その双眸を。
 人間は想像以上に――。
 いつの時代も気が付かされ、思い知らされ、すぐに忘れてしまうこの事実に。
「俺はこの木と同じか?」
 シニカルに笑むはずだったのにまったく笑えはしなかった。
「千秋ってプライド高いよねえ」
 呆れたように彼女は俺に告げた。
「自分で分かってて知らないふりするんだから」
「どういう意味だよ……?」
「そのまんまよ。そのまーんま!」
 と言った彼女は一歩前に出て、
「もっと素直に生きれば?」
 背伸びがてら向き直った。
「…………。俺はいつだって――」
「嘘ばっかり、それのどこが素直だっていうの。この意地っ張り!」
「――――なっ」
「そんな顔で言っても説得力ないし」
「…………」
 そうまで言われれば、俺だって黙らざるを得ない。そんな俺を彼女は見つめ続けている。
「笑って――」
 真実を。
「嘘をつくのは」
 飲み込むのは。
「つらくない?」
「――――……」
 ツラクナイ、ワケ、ガ、ナイ――……。
 でも、それを引っ括めて――……すべてを――すべてを承知で。俺は。
 そう思うのと同時に。
 心は破裂しそうなのに。
 ……――それでも。
「つかなけりゃならない……嘘も、ある」
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2005
12,28
 きれいでしょ? と彼女は得意気に笑った。
 今度は独り言ではなく、俺に向けて。そう笑ってみせた。
 彼女が俺に見せたかったモノは、夜闇の中、彼女の背後で万人に等しく煌めいていた。
 けれど、俺には。
 それよりも――。


 てっきり俺は家路についたのだと思っていた。
 電車に揺られ、最寄りの駅に着けば、バスに乗り継いだ。それはいたって平々凡々とした棲み家たる寺までの経路で。唯一、違っていたのは降りた停留所がいつもより二つほど前だったことだ。
「…………」
 俺はあんぐりと口を開けて見てしまった。
「――ああ、こりゃ」
 すげえな。
「すごいでしょう」
 すごいけど、すごいにはすごいが、
「おい。南都……これって」
 連れて来られた場所はよくある普通の公園である。 その中心には――。
「ふふん。なかなかの穴場なんだよね」
 電球のコードに絡めとられた木は。
「……これって」
「銀杏の木よ」
「――すごいコラボ、だな」
「ま、こんなもんでしょ」
 くすくすと喉のあたりで笑っている南都がいた。
 こんな、モノか……。
 こんなモノなのか。
「そうよ。こんなものよ」
 太い幹にもみの木よりもみの木らしい枝ぶり。ショッピングセンターにあったそれよりも、当たり前だが大きく、地に根を張っている。
「さすが日本人って感じで私はこっちのが好き」
 クリスマスと託けてそれらしきものなら、何でも飾り立ててしまう日本人という種はいい加減だ。
「信仰なんてあったもんじゃねーな」
「それがいいんじゃない」 悪戯心と遊び心。
「楽しければいいのよ」
 その最たる犠牲者を俺は見たような気がした。
「クリスマスなんてそんなものよ」
 この木には悪いけどね、と南都は舌を出してみせた。
「――でも、千秋がこの木になる必要はないよ」
2005
12,28
「きれい」
 そう呟いて巨大ツリーを見上げる彼女の脇に俺は立った。
 巨大ショッピングセンターの広場に相応しく堂々と立つモミの木は、金や銀、ラメ光りする赤や青の玉が所狭しとちりばめられて、金色の天使達が舞う。その合間合間を縫って電球が点滅していれば、人々が見惚れる要素は十分だ。
「――千秋は」
 上向く彼女が呟いた。その響きにはいつもの俺に向ける刺々しさはない。
「千秋は、好き?」
 それどころか、向けられる眼差しは挑戦的なうえに透明で。
「――――……」
 こういう眼を俺は知っていると思った。と、同時にその真実を見抜く眼に硬直してしまった。

 ――千秋。

 脳裏を掠める面影。
 思い出そうとしさえすれば、今尚、褪せることなく。
「こういうの」
 強い視線が俺から離れる。その視線が向かう先を俺は追った。
 巨大なツリー。
 彼女がきれいだと言ったそれは当たり前だが、俺の目の前に変わらず存在して輝いている。あたかも瞬く光は見る人各々の細やかな幸せのように。

 ――願いのように。

 瞬いている。
 俺はそれを――、
「嫌いじゃねーな」
 一年に一度、この日のために用意された木は今日だけに意味があり、明日にはなんの意味もなくなってしまう。
 けれど、それでも。
 今日という日に思い思いにこの木を見上げて、思い思いの倖せがここに存在る。
 俺はそれを嫌いじゃない。寧ろ――。
「……――そう」
 出し抜けに相槌を打たれて、視線を落とした。
「南都?」
 彼女は軽く唇を噛み、俯いている。そして、名を呼べばキッと睨まれてしまった。
 先程まで機嫌が良かったはずなのに一転して悪くなってしまったようだ。
 同居しはじめて、三週間。彼女が気難しいことは理解した。自分が歓迎されていないことも重々承知の上、それでも本気で嫌われてはいないと確信を持てたのはつい先頃。
 じっと彼女はツリーを見ている。そして、おもむろに一歩を踏み出した。俺もその後に続く。
「…………」
 振り返る気配のない彼女が俺に抱く想いと憤りに気が付けるほど今の俺には余裕がなかった。
2005
12,27
 俺は顎を引いた。
「なぁーつ。なーつ。南都ちゃん?」
 俺の呼び掛けを無視してずんずん行く彼女がいなかったら――。
「おーい、南都! 南都! 待てよ。南都ぅー!」
 俺は――。
「南都南都と……町中で大声で呼ばないでよ! 恥ず――」
 ここにいることは――……。
「――……ッ」
「――今日は」
 背を向けた彼女にふぁさりとマフラーを巻いた。
 肌ざわりの良い、白いマフラー。俺が買い物していた時、彼女が見ていたものだ。
「ありがとな」
 もしも彼女がいなかったら、俺は現実に係わることを今以上に拒絶して、きっと未だ内に籠もっていたに違いない。現実に疲れきった俺は少なくとも、町中に出てこようなんて考えもしなかっただろう。
 彼女がいなければ。
「どうした? 南都」
「……ばか」
 マフラーでくぐもった返事がいとおしく、俺は南都の頭をくしゃりと撫ぜた。
「何か食べて帰るか……?」
「…………」
 呆れたような、恨めしい上目遣い。
「……奢り?」
「ああ」
「――何でも?」
「ああ」
 ぱっと表情の変わるこの同居人はこの約三週間で随分、いろいろな表情を見せてくれるようになった。
「――じゃあ」
 けど、こういう表情は初めて見たと言っても過言ではない。
 それは自分がよくやる表情で。
 俺は不意を突かれて固まった。



「なあ……」
 ――南都……。
「なに?」
 指をしゃぶりながら、南都の目線はガラスケースである。
「今日……クリスマス・イヴだよな?」
「うん」
「…………」
「あ、ハマチ!」
 へい! と職人の掛け声一つ、目の前のゲタに寿司が二つ乗る。
 こういう日は普通??、
(イタ飯とか、おフランスとか??)
 好むんじゃねえのか!? 普通!?
「あ、別にお酒呑んでもいいよ~」
 あんた酒癖悪くないしね、と美味しそうに頬張る彼女。
「…………」
(洒落たもの好むんじゃねえのか……?)
 と心の中の疑問をそのまま口に出して言えば、倍以上の反論が返ってくるのは目に見えてるので、俺は言われるがままに熱燗を頼んだ。
 そうでもしなければ、どうにもこの場を乗り切れるとは思えなかったのだ。
2005
12,27
 一言で言えば、居心地が良かったのである。
 だから、居座った。
「…………」
 ここに、留まることを決めたのは、気紛れにすぎなかった。けれど、そうなることは案外必然だったのかもしれないと今は思っている。
 俺は瞳を細めた。
 行く道を飾るイルミネーションがちらちらと点灯しだして、人々の目線が泳ぐ。歓声を上げる人、指を差す人、駆け寄る子供――。
 俺が欲していたものは何なのだろうか。
 あの時から俺は考え続けている。あの日からずっと――……。そうずっと……。
 考えなかった時は唯一、今では日課と化したお経を上げている時ぐらいだ。まーこんな日が来るとは思いもよらなかったが。その時ばかりは考えている余裕はない。いくら仏と契っていようと、日常使っていなけりゃ忘れるものだ。だから、何百年ぶりの読経は悪戦苦闘もいいところなのである。
 けれど、それ以外の時は、そう、酒に興じていようと何をしていようと寝るとき、……夢でさえも頭からそのことはそう簡単に離れてはくれなかった。
 俺が欲していたものは何なのだろうか。俺は何を欲したのか。俺は彼に……何を、

 ――何を、望んだのか。

「――――……」
 俺が望むことなんて――。
 彼の、幸福(倖せ)には代えられない。
 けど、想いは――……!
 ――馬鹿ッ 千秋!
 前を行く少女。
 ――働かざるもの食うべからず!
 柱にもたれて座る俺の眼前で仁王立ちした少女。
 彼女がいなかったら――。

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