2007 |
11,18 |
«冬の一コマ»
空を見上げた。
知ってはいるが、空は何処までも青い。
乳白色の、夏とは違う青さに俺は、瞳を細めた。
――冬が、近い。
いや、もう既に遠い昔なら冬と言われていただろう、十一月だ。
「おい、千秋」
「…………」
なんだよ、と俺は不機嫌な顔のまま、奴へと振り向いた。
想像通りの間抜けな面をさらしているコイツに腹が立たない訳がない。
「千秋」
呼ばれるだけで腹が立つ。
けど、これぐらいで腹なんて立っていたら、こんな奴と長い付き合いなんてできやしない。
「……なんだよ」
奴は自分の腕をさすって、俺から視線をはずしやがった。
(……自分から呼んだ癖して)
なのに、ちらっと上目遣いでこちらをみた奴は俺の気もしらないで、こんなことを言う。
「――寒くないか……?」
寒いに決まってんだろう。冬なんだから……バカ虎。
そう、いつもなら例年、この背中には大きなケダモノの背が覆い被さっているから、寒くはないのだろう。
だけど、そのケダモノはここにはいない。
俺とコイツの関係は――。
答えの出ている問いが思考を駆け巡る時、どうしても無意識に縦皺が寄ってしまう俺だったりする。
「なぁ、千秋」
口を尖らして、俺の名前を呼ぶ大将は本当にガキだ。
また、ちらりと奴はこちらを窺った。
このままだと埒があかないのは知っている。
だけど、天の邪鬼な俺はそう簡単に奴の意図に乗りたくはないのだ。
「千秋、なぁ千秋! 千秋ったらッ」
奴は業を煮やして、ぶっきらぼうに俺の名を連呼しだした。
本当に……今生のコイツは子供だ……。
けど、こうすれば俺が折れるって知っているのだから質が悪い。
「あー!! うるせぇ!! なんだよ!? 冬は寒いのは当たり前だろがッ!!」
「冬と言ったら肉まんだろ!?」
ん?
今、コイツ何を言った。
そうだった。今生のコイツは確かに今までのコイツではあっても、思いも寄らない現代ナイズをされているのを忘れていた。そして、案外もなにもコイツは普通時において、それほどケダモノを必要としていることもないことも……独りストイックになりかけていた俺は忘れていた。
「てめぇ……」
「悪ぃ、金がねぇ」
……あぁ、そうかい。
そんな真っ向から言われちまうと、今回のコイツの家庭環境に情が湧いちまうじゃねぇか。
ち、しかたねぇか。
「ほらよ」
この借りはでけぇぞ、と言って俺は親指で一枚の硬貨を飛ばした。
「悪ぃ、今度返す!!」
今の今まで俺を睨みつけていた奴は五百円玉をキャッチすると、本当に無邪気に嬉しそうに笑った。そうして俺の五百円玉を強く握りしめた大将はコンビニにへとダッシュで駆けていった。