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だ、駄文

二次創作のくだらない駄文置き場
2024
11,27

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2007
05,20

   『歓声の中で』


 ――銀杏が色づき始め、晴れた陽気に窓から差し込む陽光も暖かさが鈍くなった頃。
 千秋はようやく病院の少し固いベッドにも慣れて、すやすやと眠っていた――が、
 コトリ。
 耳元のサイドテーブルに荷物が静かに置かれる音がして千秋は無意識に眉を寄せた。
 さらに続いてシャッという音と共に朝を告げる光が、閉じた千秋の瞼を刺激して。
「…………ッ」
(――眩しい)
 反射的に腕を両の目の上へと置いた。
 寝起きのボーっとした頭は、状況を的確に捉えるのには不適切である。
 だから、自分の上に覆いかぶさる影が異常に距離を詰めてきているのに千秋は半覚醒状態の無防備な顔を相手に晒していた。
「――熱は……ない、か」
「…………」
 ダ、レ……?
 千秋の額に触れた手は、熱くも冷たくもなかった。ごつごつとした感触もなかったが、女性の持つ柔らかさもなく、千秋は睫毛を揺らした。
「朝だよ。起きて。みんなが――」
 ――待ってる。
「…………」
 誰が待っているというのだろうか。
「ほら起きて、って起きてるだろ? シュウ?」
 近づく人影、逆光でその顔の特徴は分からない。
 だけど、今生で千秋のことを修平という名で呼ぶ人物は限られていて、まして「シュウ」などという呼び方をするのはただ一人だ。
「……よ、し……にぃ……」
「覚めた?」
「…………」
「覚めたなら、起きる。起きる」
「…………」
 言われるがままに千秋は枕をクッション代わりにして半身を起こし、ボーっと目をこすって俯いていれば――、
「!?」
 いきなり千秋は何かを被せられた。
 はっと顔を上げれば、いつもの戸惑ったようなけれど、はにかんだ照れくさそうな笑みを兄・芳紀が千秋に向けていた。だが、いつもと違って――、
「早く着替えて! 時間ないんだ」
 手には白い半ズボン、どうみても芳紀の体のサイズには小さすぎるそれを握り締め、千秋を見る目は使命感に燃えていた。


 ワァァァーアア!!
「…………」
 千秋は憮然と人によって作られた馬に乗っていた。
《ほら、長秀! いつまでそんな顔してるのよ!》 
 プール納めで体調を崩して早いもので一ヶ月以上を病院で過ごした。あれだけ病院を抜け出すことに精と魂を注いだと言うのに……。
 退院というものは、――突然訪れるらしい。
《これぐらいしか競技に参加できないんだから、しっかりやりなさいよ!》
《うるせッ》
 綾子率いる白組5年の騎馬戦の大将を務めるのは、3年生の白組所属のホープ(?)千秋だった。
 そう、今日は一年に二度ある一大行事の、秋の運動会であったのだ。
 ちらりと横目で保護者席を見れば、最前線を陣取っていつもは単身赴任でいない義父がビデオカメラを構え、母が息子と娘の名前を叫んでいる。今朝、千秋を起こしにきた兄・芳樹もその隣に座ってこちらを楽しそうに見ている。――で、その隣に……あの曰くのデジカメをちゃっかりと神妙に構えた色部勝長がいた。(ちなみに色部は忙しい綾子の両親の代役だ)
 千秋は肩を落として嘆息した。
 こんなことになるぐらいなら、デジカメの使い方なんて教えるんじゃなかった! と千秋は舌打ちを今日何度したか。
「わたしの背に乗ってんだから絶対帽子とられるんじゃないわよ!」
「…………」
「聞いてるッ!?」
 返事の変わりに千秋は綾子の後頭部にチョップを加えた。
「こらーッ!」
 キーッと綾子に癇癪を起こさせはしたが、勿論、千秋はそれに取り合う気はさらさらない。
「うるせ。始まったぞ、前見ろよ! 取られたくないっつたのお前だろ!?」
 ああ、本当にムカつく……!
 すべてが仕組まれていて自分にだけ知らされていなかったと知ってしまうと本当にムカつく!
 ――遅くなってすまない! 用意はできてるかい!?
 勢いよく病室の扉を開いたのは、千秋の担当医・佐々木こと色部勝長だった。しかし、その出で立ちはいつもの白衣姿ではなく、薄桃色のポロシャツにクリーム色の綿のパンツという姿で――。
 ――着替え完了です!
 と芳紀が答えれば、色部はこちらへと視線をむけて、にやりと満足気に目を細める。
 あれよあれよと体操着に着替えさせられた千秋は呆然とただただ二人のやりとりを見ていた。だが、だんだんと千秋の胸にいやーな予感が去来してくるのは言うまでもないだろう。
 ――荷物はそれだけかい?
 ――ええ、大丈夫です。あとは母さんたちが持って行ってます。
 ――そうか、それじゃ……行くぞ!
 言うや否ややけに張り切った色部が大股に千秋に近づいた。
 無論、ベッドの上で本能のままにあとずさってヘッドボードのパイプを掴もうとした千秋である。――が、
 ――!!
 パシッと手首を誰かに掴まれた。
 はっとそちらに顔を上げれば、芳紀のにっこりと微笑んだ顔が待ち受けていた。
 ――ダメ。シュウが行きたくないって言っても、決定事項だから。
 二人の連携はすばやかった……。千秋に考える暇を与えず、そして千秋の体は千秋の意思とは関係なく浮いた。
 ――ずいぶんと食べさせたはずなんだが、軽いな。
 ――お、降ろせ!!
 こん畜生ッ!!
 ――降ろしたら逃げる気だろう?
 当たり前だ! 誰が好き好んでーっ 知ってたら――!! 行くかーッ!
 担ぎ上げた色部はまったく聞く耳持たず、千秋を荷物のように担いで病室を出た。
 ――降・ろ・せーーーぇぇ!!

 誰が、『運動会』――になんかでるかーッ!!

 と、じたばたしても後の祭りだった……。
「こら!! 綾子もっと俺を持ち上げろ!」
「いったーい!! あんた私が両手ふさがってるからって言いようにチョップかましてんじゃないわよ!」
「うるせ! 馬の癖に文句言うな!」
「なんですってーッ 誰が好き好んであんたなんか乗せてるっていうのよ!」
「はん、知るか! てめーたちが勝手に決めたことだろうが!」
 と千秋は怖いもの知らずに自分の体を支える綾子の腕に蹴りを一発入れた。うっと言う綾子の悲鳴とともに千秋を乗せる馬は暴れ馬となす。


 ワァァァーアア!!
「いけー! 修ー平ーぃ!」
「修ちゃん! 後ろ後ろ!」
「菜摘ー!!」
「修平ちゃんー!!」
 滅多に見られない娘、息子の勇姿(特に貧弱な息子の)をベストポジションで見るために朝から開門と同時に走り、陣取った千秋の両親は競技の応援に夢中だ。その隣で――、
「あれは……」
「どうみても……うちの弟が」
 色部の言いたいことを引き継いだのは、微妙に笑みが引きつりかけている芳紀だった。
「…………」
 ――悪いですよね……。
「…………」
 神妙な、強張った感じの芳紀の声音は、歓声に掻き消されることなく色部の鼓膜を振るわせた。
 言葉も発せられることなく、思わず固まってしまっていた色部が頭痛を覚えたのは言うまでもない。色部がカメラに納めようとしていた二人のやりとりは過激を極め始めている。
(あいつらは――)
 乗り手と馬がめちゃくちゃに喧嘩している最中、どんどんと競技は進行していき、参加者はまずは危険な馬に近寄らない方針になったらしい。だが、腐っても夜叉衆……喧嘩していようと息はぴったりとあっているのである。なんだかんだと千秋の手にはいくつかの赤い帽子が握られていた。それでもぎゃーのぎゃーの二人は言い争っているし、千秋のチョップと蹴りは健在で。
「後ろ! 後ろー!!」
「修平! 後ろだッ!」
 二人の背後に赤色の帽子を被った大将と見られる騎馬が一体が回った。
 そろりと千秋の帽子に手が伸びる。
 その時だった。
 綾子の堪忍袋の緒が切れたのは。
 綾子の振り落とそうという動作に、千秋の軽いウェイトがあいまって宙へ舞った。
 ゴツ。
『あ……』
 歓声が一瞬止んだのは気のせいか……?
 崩れゆく赤い騎馬。
 赤い帽子が宙に散りばめられて――、
 元通りの騎馬の上に納まった少年は後頭部を両手で抱えている。
 スローモーションのごとくその衝撃たる光景――千秋の頭が赤い騎馬の少女の顎にきっちりと入った光景は千秋少年たちに注目していた千秋家の人々と色部の目には確実に焼きついた。
 目にも当てられない、とはこのことだと色部はこめかみを押さえた。
 この一撃で勝負が決まったのは、言うまでもなく、色部が頭痛どころか眩暈を催したのは当然のことだった。


(たく……ッ)
 やってられねーよ……と後頭部を抑えて千秋が呻いたとかなんとか。
 その後も千秋少年は大人気で、買い物競争に出場した菜摘が「学校のアイドル!」と書かれた紙を引き当てて連れ出されたり、リレーに何故だか引っ張り出されたり、親子二人三脚では父親のたっての希望より菜摘ではなく千秋が出場することになり……、安静第一のはずなのにかなりの競技に出場する羽目となったのだ。
 せめてもの救いは千秋たち白組の勝利で終わったことだろうか……?

 ――end.

 

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2006
02,05
「たーつーみーィ!書け!書くんだァ!おまえが書かないと俺が高耶さんを追えないじゃないか!」
く、苦し……。
「さあ、書くんだァッ!」
「そのへんにしておけよ(溜息)」
「そうだぞ。直江」
「離せ!千秋!色部さん!」
「言われて離せるわけねーだろ。たくッ」
「晴家、持ってきたか」
「もちろんよv私に任せて」
「晴家ッ……!」
「あんただけが書いてもらえないわけじゃないんだからねッ!たまにはおとなしくしなさい!」
「フガ……!」
「いつまで保つかね」
「いつまで保つかしらね」
「最低でも五月までは保ってもらわねばならんのだが」
「保つかね……」
「微妙なところね」
巣巻きにされた直江を見下げて三人は同時に嘆息した。
「ま、付き合ってやっからたつみ早く終わらせんだぜ」
が、がんばる……。




はーい、ということで。色部さんで詰まってたら、勉強とあるモノに参加するブツの制作に取り掛かねば間に合わなくなりました!ので、またも「天使」シリーズは休止です(>_<)
あしからず。
2006
02,05
「報告します。現在、下界での魔族の勢力図は――」
そう言って手元の紙に目を落とす部下は会議の前に事前に配布されていた報告書以上の内容を詳しく告げはじめた。
しかし、報告内容など聞かずとも……。
色部は本来、景虎が座るべき席に座り、会議に参加する面々を眺めみた。
皆、一様に複雑な表情をしている。いつものような快活雰囲気は皆無だ。
それも仕方のないことだろう。
景虎が指揮をとり約四百年、三十年前の大戦で彼を失い、数年前やっと彼が発見つかったというのに……。
事態の深刻さは三十年前の比では、ない。
色部は静かに瞼を降ろした。
2006
01,12
「誰か助けて!」
悲痛な叫びが耳に飛び込んできて高耶は立ち止まった。
振り返る。見渡す。
が、
「…………」
気のせいだったのだろうか――。
周囲の人たちに何ら変化は、ない。
各々が他人を気を配るふうもなく、無関心に行き交う人々の光景が広がる。
都会の雑踏、どうやら立ち止まったのは高耶だけだったようだ。
(気のせいなら、――それで……いい)
肩の力を抜き、歩きだそうとして高耶は見た。行き交う人々の間を縫って出来た視界の先。ビルとビルの間の世界の影の闇のような空間で。
――くず折れいく少女を。高耶は――、見た。
2006
01,08
ゆっくりと力を込めてみれば――。
千秋は口端を吊り上げた。
「案外普通じゃねーか」
「あなた用に特別に用意したものですからね」
千秋はその明るい栗茶色の髪の青年の台詞を鼻で笑った。
よく言う。
「ふん。こんな代物……現代じゃ手に入んないさ」
途端、千秋より青年の顔は無垢ならではの、残忍な笑みを浮かべて、
「何か不満でも?」
「んなの、あるわけねーだろ? 魔王様の趣味にケチなんてつけっかよ?」
千秋はにっと笑い、肩を竦めてみせ、無造作にシガレットをくわえた。が、
「敢えて言うなら――」
不敵なまでの彼らしさで、
「この泣き黒子かねえ」
と、千秋は隣の青年の肩に馴々しく手を置き、宣った。

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